介護において「人を大切にする」ことは、あらためて触れるまでもない大前提のことです。
「介護の仕事」をされている方は、みなさん「人を大切にしたい」と思われているはずです。でも「大切に」という言葉が曖昧なままだと、行動に移せないものでもあります。
そこで、私が介護技術を通して「人を大切にする」ことの今現在を言語化したものが、この10か条になります。
「人を大切にする介護」のポイントは5つあります。
- 人としての暮らしや動きを大切にする。
→ 人らしい暮らしをサポートするために、人らしいサポートを。
- その人の人生と生活習慣を大切にする。
→ その人の歴史を知る。
- その人の今と未来をを大切にする。
→ 普通の生活をするための、特別な工夫を通して、自立支援と重度化予防を。
- 最期までかかわる。
→ 人生の終焉をその人の集大成としてとらえて、今を考える。
- 介護者自身が健康または健康に近い状態である。
→ ご本人にとっても、あなたはとっても大切な人。
あなたにとって「人を大切にする介護」とは、どんな介護ですか?
「介護とは、こうあるべき」という思い。それと同じ、いやそれ以上に「こんな介護はいや。してほしくないし、されたくない」ということもあるのではないでしょうか。
実は、今回整理した10か条も、「あるべき」ではなく、「自分が嫌なことは人にしない、したくない」という感情や気づきを中心に整理してみたものなのです。
この10か条が、あなた自身の「自分の介護」につながるきっかけに、そして何より、あなたと出会われたご利用者さんの暮らしと未来につながればうれしいです。
第1条:「今の状態」が出発点。あきらめず「今」の中から、できることを探しましょう。
例えば、おむつの中で排泄している人がいます。この方はトイレまで歩けな
い方です。
「歩けるようになったら、トイレに行こうね」という取り組みでは、「今はトイレに行けないからオムツでしょうがない」ということと同じことだと思います。
歩けなくても、座ることさえできれば、適切な移乗等の介助でトイレで排泄することは可能ですし、おむつをトイレの代わりにする必要はありません。
また、住宅環境などで難しくても、ポータブルトイレという対策は可能なわけです。
トイレに行けない理由を今の状態のなばかりで考えていくと工夫の思考が停止してしまいます。
反対に、トイレで少なくとも座って排せつするにはどうすればよいか を考えることで、その人の持っている可能性に気づき、暮らしの中で引き出すことができはずです。
もちろん「今」のリスクにも最大限配慮する必要があります。
プラスもマイナスも含めて「今の状態」を知って、そこを出発点として介護を組み立てる。
「できること」「できるかもしれないこと」を探して活かし、「できないこと」は適切な配慮を行っていきましょう。
第2条:介護技術は誰のためもの?利用者さんのためのスキルであることを忘れずに。
「人を大切にする介護技術」は、利用者さんの主体的な生活を実現するためのスキルであり、最優先の目的です。
例えば、介護者の腰痛予防を主目的とした考え方とは一線を画します。
介護者の腰痛を予防するあまりに、利用者さんの残っている貴重なチカラが活かさないで暮らしが継続されるとどうでしょう。
その能力は活かれることがなまま、今残っているチカラは容易に奪ってしまいます。
私たちは、利用者さんに残っている貴重なチカラを引き出し活かし支えることで、ご本人主体の生活を目指したいですし、自分で動いた実感を暮らしの中で感じてほしいと思っています。
そしてこのような考え方での実践の結果、自立支援や不用意な重度化予防につながります。
第3条:動かす介護ではなく、ご本人が動いた実感の残るサポートを。
利用者さんの人生の主役はご利用者自身です。
「介助」は、生活上難しい部分にサポートするのが役割です。
利用者さんを動かすことを目的とした援助の方法では、主役は介護者であり、「自分で動いた、できた」実感には至らないことが分かります。
できることが減っていく日常のなかですが、わずかでも残っているできることを無理なく引き出し、支えることが私たちの役割です。
そして。そのことを援助のなかで一緒に確認できることは、ご本人にとっても大きな支えになるのではないでしょうか。
人生の主役も、動作の主役もご本人です。ご自身が動く、そのあと必要なところをサポートすることから「自分で動いた実感=生きている実感」が生まれるものです。
是非援助の後、「自分で動いた感じがした?」と利用者さんに尋ねてみてくださいね。
第4条:介助の前に「条件づくり」を積極的に
介助の原則は、「動作が難しいときに必要な分だけサポートする」もの。これは多くの方がご存じのとおりです。
できないことを目前にすると介助の場面になりますが、条件づくりをすることで、一人でできないことができるようになることも少なくありません。
条件づくりと介助については、二つの考え方があります。
例)一人で立ちあがることが難しいけど、立ち上がるとトイレに行くことができるAさん
- 「難しい部分に介助でサポート」そのうえで「楽に安全にするための条件を工夫する」
つまり、難しい部分には、まず「人がサポートする」という考え方です。
Aさんの場合、一人で立てないのでトイレに行くときにはその都度他人が介助をするという考え方です。
トイレに行きたい時にでも、いつまでも誰かがいないとトイレに行けないという事実が継続することが分かります。
- 「難しい部分でも、条件を工夫することで、「小さなできる」が増える」+「必要な部分を介助でサポートする」
つまり、難しいことでも、まず少しでも力が活かせるよう、条件を整えることから始めるという考え方です。
Aさんの場合、適切な位置に手すりを考えたり、椅子の高さや座面を整えることで、一人で立ち上がりができるようになるかもしれません。
これまでずっと介助していたけど、手すり一本つけるだけで。椅子の硬さを整えるだけで、一人で立てるようになったという話は、実はよくあることなんです。
この考え方ですと、条件づくりを行った後、一人でトイレに行けるようになる可能性大きくなり、先に述べた考え方より、一人トイレにいける未来が近づくことが分かります。
そもそも、人の能力はどんな環境、条件に囲まれているかで大きく変わるものです。
それは単に「モノ」だけにとどまらず、どんな考え方を持った人なのか、どんな介助をする人なのか、さらには、どんな介護をやっているところ(施設・事業所)なのかなど、「人」も大きな条件になります。
そのためにも「人を大切にする介護」を具体的に考えていきたいところです。
第5条:普通の動きをするための特別な配慮と工夫。人の動きの援助では、人が本来する動きに沿うことを原則に。
私たちが無意識にしている姿勢や動きは、人の体の仕組みに沿ったものですし、それぞれ理由が存在します。
例えば、トイレで排泄をするとき、私たちは前かがみの座位姿勢になっています。そして便座から立つとき、便座に座るときも前かがみになりながら立ち座りしていることも分かります。
なぜこのようにするのか。それは人間の体の仕組みがそうなっているからですし、何より過去何度も繰り返した暮らしそのものになります。
介護を組み立てるうえで、「人間だったらこうするよね」を根拠にすることは安全安心のほか、もちろん自立支援や重度化予防にもつながります。
また、人の動きを根拠にするということは、人として暮らしていただくことをサポートすることに他ありません。
人は座って食事を食べ、座ってすっきり排泄し、座って湯船につかります。出かける前には身だしなみを整え、そして人と会い、活動し、休息をとります。
「人だったら」を根拠とする介護とは、これらをサポートする介護とも言えます。そして何より「人として最期まで暮らしてほしい」という願いでもあるのです。
第6条:無理強いしない、ほっとかない、あきらめない。安全・安心が大前提(利用者編)
介助の前に、その方の持っているリスクを知り最大限配慮することはもちろん、人のお体に触れる介助は、安全、安心が大前提です。
介助のときに利用者さんが抱く「痛い、つらい、嫌な感じ」。その感情は、介助のたびに思い返されることになるでしょう。
そして介助自体が元気を奪うきっかけにつながるものですので、無理強いは禁物です。
どんなに上手にみえる介助であっても、ご本人が痛かったりつらかったりするならば採用できません。
だからといって、何も工夫しなければ未来は変わりません。
無理しないながらも、ほっとこない、決してあきらめない。そのための条件づくりや工夫を重ねていきたいです。
第7条:介護者も「痛い、つらい、難しい」は無理しない。安全・安心が大前提(介護者編)
介護に携わっているあなたは、痛いところありませんか?無理しているときありませんか?きちんと休めて眠れてますか?
利用者さんにとって、いつもそばにいてくれるあなたは、きっと大きな存在のはずです。介護者自身がつらいい思いをしながら、自分のサポートしているのは、きっと利用者ご本人もつらいことだと考えます。
そして何より大切な人と逢えなくなることが、一番つらいことではないでしょうか。
実際に介護技術を実践するうえでは、介護者自身が「痛い、重い、難しい」と感じることは少なくありません。そう感じた時こそ「学べるタイミング」だと思っています。そんなときは決して無理することなく、他のスタッフに「助けて」って言いましょう。
※難しいとき「助けて」って言える職場風土も大切です。
そして、「痛い、重い、難しい」を解消するべくご自身が取り組んだ先に、大きな成長が待っています。是非このチャンスをつかんでください。
第8条:ケアする人こそケアされるべき
介護者はご本人の暮らしにとって、欠かすことのできない大切な条件ともいえます。
人の幸福度はどんな条件に囲まれているかで決まるともいわれています。
だからこそ、介護者自身が「よい条件」になるよう健康であってほしいと願っています。
とはいえ、介護の仕事は心身の疲労が大きいのが事実です。
「ケアする人こそもケアされるべき」
健康を害する前に、是非心身をリセットしてほしいと思っています。
「ライフサポーターPOST★まん」は「出張専門整体笑楽~わらく~」を運営しております。実際に介護事業所の訪問時に、介護職の方への心身のメンテナンスとしてご活用いただいています。
第9条:三方一両得の実感が残る介護を
ご本人の実感、介護者の実感、他者の実感
どんな介護技術であっても、これら3つのうちどれかが犠牲になっても
「大切にする介護」は成立しないと思っています。
- ご本人が「痛かったり怖かったり、動かされた感じ」が残る介助。
- 介護者が「痛い、重い、難しい」と感じる介助
- 他者が「大変そうだね、きつそうだね」と感じてしまう介助
一方で、
- ご本人が「自分で動いた実感が残る。できたが残る」介護技術
- 介護者が「できた、利用者さんと喜べた、またやりたい」と感じる介護技術
- 他者が「なんだかかっこいいね、楽そうだね、元気そう」と感じる介護技術
それぞれ、どのような未来が待っているでしょう。
この考え方は、実践している介護技術が適切かどうかをはかる指標になるものです。是非このものさしを使っていきましょう。
第10条:ありがとう!やったね!もうひと工夫!にあふれる介護シーンをつくるために
利用者さんの今のチカラを出発点にして、適切な条件と人の体の仕組みにそった援助を、本人主体で実践する。そして介護者自身も継続できる。そんな介護シーンでは、必ずや心からの「ありがとう、やったね、できたね」という会話が利用者さんと職員の間でごく自然に起きてくるでしょう。
そんなやりとりのなかだからこそ「もう一工夫」と工夫するチカラもわいてくるものだと思います。
起き上がるたび、食事で椅子に移乗するたび、トイレに行くたび、お風呂に入るたび、暮らしのなかで「ありがとう、やったね、できたね、そうそう」が積み重なていきましょう。